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コラム

「まだ何も決まっていないんですけど」が、いちばんうれしい一言です

連載「恒電社の考え方」第1回。株式会社恒電社 取締役 恒石陣汰と、記事タイトル「まだ何も決まっていない段階に、いちばん時間をかける」

「まだ何も決まっていないんですけど・・・」

弊社にいただくご相談は、この一言から始まることがよくあります。

電気主任技術者からキュービクルが古いと言われたけれど、本当に更新が必要なのか。太陽光はPPAと購入型のどちらがいいのか。補助金が出ると聞いたが、自社で使えるのか。決まっていないどころか、何を決めればいいのかがまだ見えていない。

正直に言うと、この一言から始まるご相談が、いちばんうれしいです。

恒電社のホームページには「ご提案にこだわる電気工事会社。電気のお悩みは、恒電社に"まるっと"お任せください」と書いてあります。

営業の決まり文句に見えるかもしれませんが、私たちにとっては経営の判断そのものです。ご相談をいただいてからご契約に至るまでのあいだに、現地を何度も見せていただいて、図面を起こして、補助金が使えるかを調べて、電力会社と事前に話をする。ここまでで費用をいただくことはありません。

会社としては、受注に至らなければこの時間は戻ってきません。それでもここに時間を使うのがいちばん合理的だと本気で思っているので、なぜそう考えているのかを書きます。採用サイトのコラムなので、うまくまとまった話ではないかもしれませんが、経営の中で実際に議論して決めたことを、そのまま書きます。

私たちが売っているのは、形のある商品ではありません

では何を売っているのか。こう考えるようになりました。

電気工事業は、形のない商品を扱うサービス業なんじゃないか、と。

恒電社はメーカーではありません。ものを設計して製造して、製品として売っている会社でもありません。工事が終わればキュービクルも配線も照明も、形としてお客様の手元に残ります。でも、私たちがお渡ししているのは機器そのものではなく、施工という行為と、そこに至るまでのお客様の体験なんだと思っています。機器そのものはメーカーが設計・製造されたものですから、そこで差がつくわけではありません。

これは言葉の整理だけの話ではなくて、経営の打ち手が変わる話です。ものを売っている会社なら、製品の性能を上げることが選ばれる理由になります。私たちの場合は、何を良くすればお客様に選んでいただけるのかが、まったく別の場所にあるように思います。

丁寧な仕事ほど、目には見えません

これは、現場の仕事を軽く見ている話ではありません。逆です。

現場の技術は恒電社の土台で、そこがなければ何も始まりません。ご提案の中身をつくっているのも、現場を知っているメンバーです。図面の一本、離隔の取り方、停電の段取り。提案書に書けることの大半は、現場で積み上げてきたものから出てきます。

それでも、その質の高さは、なかなか目には見えないんです。キュービクルを更新したとして、絶縁抵抗をどう管理したか、ケーブルの曲げ半径を規定どおりに収めるためにどんな段取りを組んだか。どれも工事の質を決める大事なところですが、完成した姿からは分かりません。

会社を選んでいただくときの判断は、お客様の中で他社様と比べて「相対的」に決まります。そこでお客様に伝わらない、お客様の方でなかなか判断できないものは、その会社を選ぶ理由になりにくいんだと思います。

丁寧に仕事をしている会社も、逆に言うと、丁寧に仕事をしていない会社もそれがなかなか表に出ないまま、金額だけで比べられてしまう。これは、私たちも含めて業界全体が抱えている課題だと思っています。

だから、施工の質を高めることと、その質がお客様に伝わる形をつくることは、別々にやらないといけないんだと思います。技術は磨く。そのうえで、お客様が判断できる形に翻訳してお届けするところまでを仕事にする。私たちはそう考えることにしました。

お客様のお悩みの9割は、工事が始まる前にあります

多くのお客様からお問い合わせをいただき、日々お客様と触れ合う中で、我々が痛感していることは、お客様のお悩みは、どの会社と契約するかを決めるまでの間に多く詰まっているということです。

電気工事の仕事は、①ご相談 → ②ご契約 → ③工事 → ④お引き渡し、という流れで進みます。このうち、お客様の迷いがいちばん大きいのは、③でも④でもなくて、①から②までの「ご契約前」だと感じています。大げさに言っているつもりはなくて、お悩みの9割はここにあると思っています。

世の中の多くの電気工事会社は、この③の「工事の質」というもので勝負していくことが多いですが、実際にお客様がお悩みのところというのは、工事の質はもちろん当たり前で、それ以外のところに多く隠されていると感じています。

例えば:
• どのくらい停電時間がかかるのか
• 何日間工期がかかるのか
• いくらかかるのか
• 補助金は使えるのか
• コストカットの方法はないのか
• 優先順位をつけて、やらなくていいことはないのか

そういった、実際の工事の品質以外の部分にこそ、多くの悩みが潜んでいます。なので、技術力が高いことは大前提として、こういったお悩みを一つ一つ幅広く解消してあげることが、本来電気工事会社のやるべきことだと思っています。

高圧電気設備や脱炭素まわりの制度は、覚えることが多いのに、お客様の日々の業務で出てくる頻度は高くありません。私たちがお伺いする現場でも、そこを専門に見る部署を置かれている企業様は多くないように思います。

工場長も、施設管理のご担当者も、経営者も、ご本業のかたわらでこの判断をしていかれることになります。ここで必要な材料をそろえてお出しするのは、本来こちら側の仕事です。それが足りないまま見積書だけをお出ししてしまうと、お客様を迷わせることになります。

冒頭に書いたようなご相談は、どれも設備の状況と事業の計画の両方を見ないと答えが出ない問いです。20年契約のPPAは後から変えられないのか。電気代が上がっているが何からやればいいのか。こうした問いに、その場で決め打ちの答えを出すことはできません。

もちろん、ご契約以降が「楽」だという話ではまったくありません。工事に入れば、限られた停電時間の中で安全に納めきる技術も、天候や搬入の条件が変わったときに組み直す段取りも要ります。現場がいちばん神経を使う場面は、むしろここにあります。ただ、その時点では「何をやるか」はもう決まっています。決まっていないものを一緒に決めていくのが、その手前の段階です。難しさの種類が違う、という話です。

社内では、ご契約までの間にお客様が気にされることを8つに整理しています。価格とコスト、対応力とコミュニケーション、技術力と施工品質、工期とスケジュール、提案力と情報提供、アフターサービス、書類と申請、それから会社そのものの信頼性と存続性です。他社様を評価するためのものではなく、自分たちの仕事が抜けていないかを点検するために使っていて、営業のマニュアルや提案書のフォーマットの土台にもしています。

整理していて気づいたのは、この8つのほとんどが工事の腕とは別のところにある、ということでした。ご連絡への返事の速さ。担当が代わったときの引き継ぎ。専門用語をかみ砕いて説明できるか。お見積りの内訳を開示できるか。関連する申請までこちらで引き取れるか。工事とは別の力が要るものばかりです。ただ、工事の腕がないとそもそもご提案ができないというのも事実です。

なので、工事自体の腕があることを前提として、工事当日より前、つまり、そのまだ計画段階のところに力を入れることが、最もお客様の課題を解消してあげられることだと思っています。ただ、工事の腕がないとそもそも対応できないというのも事実です。

なので、工事自体の腕があることを前提として、工事当日より前、つまり、そのまだ計画段階のところに力を入れることが、最もお客様の課題を解消してあげられることだと思っています。

だから、まだ何も決まっていない段階にいちばん力を入れます

ここまで整理すると、答えは一つでした。

ご契約に至るまでのお客様体験に、会社としていちばん時間と手間をかける。それを恒電社の経営方針にしています。

具体的には、初回のお問い合わせから現地調査までを最短で実施する。お見積りの根拠を内訳まで開示する。専門用語はかみ砕いてご説明する。補助金や税制優遇はご提案から申請代行までセットでやる。法令や制度の動きは、聞かれる前にお伝えする。電力会社との協議や関連する申請は、こちらで引き取る。担当はできるかぎり変えない。

どれも派手ではないですし、全部やろうとすれば手間がかかります。だからこそ、個人の頑張りに任せずに会社の形として組んでいます。電気工事士の資格を持った営業担当と、現場を知っている電気工事士がペアで動く二人三脚が基本で、その後ろに申請や日程調整を先回りする専任のサポートチームがいます。そして、現場を実際に支えてくださっているのは協力会社の皆さんです。一人で抱え込まずに回る形にしておかないと、この方針は続きません。

「ご要望をこなすだけ」「お見積りをお出しして終わり」「図面どおり工事して終わり」にしない、というのが、この体制で目指していることです。今やるべきことと、後回しでよいことを整理してお伝えするところまでが、私たちの仕事だと考えています。

目指しているのは、「電気設備や再エネのことは、恒電社にまるっと任せておけば安心」と言っていただける状態です。

「安くします」だけは、言わないと決めています

値段の話から逃げる、という意味ではありません。

ご予算に合わせて中身を一緒に組み直すことは、いくらでもします。今回やるべきことと、次の更新のタイミングまで待てることを分けて、優先順位をつけてご提案する。これはむしろ、私たちがいちばん力を入れているつもりのところです。相場ももちろん見ています。

言わないと決めているのは、中身の話を抜きにして金額だけを下げる、という一言です。正直に書くと、金額を下げれば目先の受注は取りやすくなります。それは事実だと思います。それでも、そこで勝負する会社にはならないでおこう、と決めました。無理のある金額で仕事をお受けすれば、しわ寄せがいくのは、そこで働く人の処遇です。次に削ることになるのが教育への投資です。そこを削ってしまえば、ご契約前にこれだけの時間をかけてご提案することも続けられなくなります。結局、お客様にお返しできるものが減っていきます。目指している姿と逆方向です。

もう少し長い時間軸の話もあります。電気工事の業界は、これから人が足りなくなります。高圧を扱える第一種電気工事士の方々の多くが、この先10年ほどで現役を退かれます。ここを変えるには、まず業界がちゃんと稼げることが前提だと思っています。利益が出ない産業では、働く人にきちんと報いることも、教育に投資することもできません。他の業界から来てくださった方が、長く働きたいと思える場所にもなりません。私たちが安さで勝負しないのは、自社の利益を守るためだけではないつもりです。

住宅の配線から始まった会社が、なぜ元請けに変わったのか

恒電社は1992年、埼玉県蓮田市で「恒石電気」という屋号で始まりました。最初は住宅の電気配線です。1994年に伊奈町へ移り、2005年に本社を新築移転したタイミングで、元請けとしてお客様から直接お仕事をいただく体制に切り替えました。

この転換の理由は、代表の恒石隆顕が採用サイトのインタビューで話しています。下請けでやっていた頃、新築の着工が減ってコストダウンの要求が強まった。担当者が代わった途端に、それまでの実績がほとんど評価されなかった。「やり方に従えないなら仕事は渡せないよ」と言われて、いつ切られてもおかしくない状況だった。そこで「二度とこんな想いをしたくない」「恒電社は元請けとして、お客様から直接対価をいただく企業になる」と決めた、と。

元請けになるというのは、自分たちでお客様と出会いに行くということです。そこから先、どうやってお客様と接点をつくるか、どうご提案するかが会社の最大のテーマになりました。今、ご契約前のフェーズにこれだけの時間をかけているのは、この延長線上にあります。元請けになると決めたから、引き受けることになった課題です。

2013年にはFIT制度の開始を機に、産業用の太陽光発電工事に入りました。代表の言葉を借りると、「電気の使われ方についてはたくさん考えてきたけれど、電気の創られ方まで意識を持てていなかった」。2020年には自家消費型太陽光のEPCを始めて、今は電気工事の会社から、エネルギーのご相談までお受けする会社へ移っている途中です。

そんな紆余曲折がありながら、今の恒電社があります。

赤い円が大きくなれば、青い円も大きくなります

社内で「赤い円と青い円」と呼んでいる図があります。

大きいほうの赤い円が、高圧受変電設備をお持ちのお客様。そのなかにある青い円が、太陽光に進まれるお客様です。まず赤を大きくすれば、青は自然に大きくなる。2030年に向けて社内で置いているテーマは、この赤い円をどれだけ広げられるか、その一つだけです。

高圧受変電設備をお持ちのお客様を表す大きな円と、そのなかにある太陽光発電を導入されるお客様の円。大きい円が広がれば、内側の円も広がることを示した図
社内で「赤い円と青い円」と呼んでいる図

これは、エンジニアリング事業部とエネルギーマネジメント事業部とO&Mチームが、別々に売上を追うのをやめるという話でもあります。高圧設備で10年お付き合いいただいたお客様が、次は太陽光を考えたいとご相談くださる。そのとき、設備の癖も運用のパターンも過去の経緯も分かっている私たちが、いちばん相談しやすい相手でいられたら、と思っています。太陽光が動き出したら、その先の20年をO&Mチームが見続ける。一つのお客様との関係を、時間をかけて育てていく発想です。

そして、事業を伸ばすこと自体はゴールではありません。伸ばしたい一番の理由は雇用です。一人でも多くの方にとって、電気業界の入り口になりたい。長く続けられて、自分の市場価値が育っていく実感を持って、ご家族を養いながら働ける場所をつくりたい。稼げる会社になることと、業界で雇用を生むことと、お客様の長期的な安心を支えることは、僕のなかでは全部つながった一本の話です。

9割が、電気の仕事は初めて

恒電社に所属をしているメンバーのほとんどが入社時は別業界から参入してきました。そして残りの1割が、この会社の土台をつくってきた人たちです。

創業期から電気工事一筋でやってきて、今は後進を育てているメンバーがいます。その人たちが積み上げてきた技術の上に、あとから入った9割が乗っています。僕自身もIT企業から26歳で入りました。前職が接客でも、営業でも、まったく別の職種でも、そこで培ってこられたものが、そのままお客様への向き合い方に効いています。お客様が安心できるように先回りするというのは、業界知識だけで決まるものではないからです。

恒電社の仕事は、電気の技術と、それをお客様に届けるところの両方でできています。どちらが上ということはありません。技術職なら、自分の持っている技術を、お客様が判断できる言葉に翻訳する仕事になります。営業なら、売り込むのではなく、お客様のお悩みを整理して優先順位をつける仕事になります。サポートやマーケティングなら、不安を先回りして見つけて、体験そのものを設計する仕事になります。施工管理なら、現場の質を守りながら、次のご提案の精度を上げる情報を持ち帰る役割があります。

これは、これから入る方に向けてだけの話ではありません。今いるメンバーが、日々やってくれていることでもあります。

そのうえで、ご一緒できたらうれしいのは、目の前の方の不安を自分のことのように感じられる方、分からないことを放置せずに調べて整理して伝え直せる方、失敗を隠さない方、そして初めての分野でも学び続けられる方です。電気の知識は、入ってから一緒に積み上げていけると思っています。

「電気のことなら、まるっと恒電社へ」。

この一行を胸を張って言い切れる会社にしていくのが、これからの仕事です。正直、まだ途中です。ここに書いたことに少しでも近いものを感じていただけたなら、ぜひ一度、お話を聞かせてください。お客様としてご相談いただく場合も同じで、まだ何も決まっていない段階からご連絡いただけたら、いちばんうれしいです。

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